トリップコラム カタルーニャ篇

カタルーニャ料理について

今回テーマのカタルーニャ州はスペイン北東部の地中海に面する州です。

カタルーニャはスペインとフランスが接するピレネー山脈の南側の地中海沿岸に拡大したことがあり、カタルーニャ料理は色々な文化の影響を受けています。8世紀以降のイスラム勢力の支配の時期には、砂糖(サトウキビ)、香辛料、ナス、アーティチョーク、コメ、パスタなどが伝わってきました。南仏の影響も受けていますが、海を渡ればアフリカということもあり、アフリカ料理や素材の影響も受けています。

油脂で言うと、カタルーニャ料理は、動物性油脂のラード中心のスペイン料理と、植物性油脂のオリーブオイル中心の地中海料理という、ふたつの地域の料理の要素を併せ持っています。ただ、徐々にラード比率が下がって、オリーブオイル中心に変化しつつあります。

お料理とワインのペアリングノート

<エスケイシャダ(タラと野菜のサラダ仕立て)>
前菜のエスケイシャダ(タラと野菜のサラダ仕立て)とトレ デル ガル カバ ブリュット NVを合わせると、マリネされた鱈の白身魚そのものの素朴な美味しさが際立ちました。料理もワインも爽やかで、素敵なディナーのスタートに最適なマリアージュです。

<スペイン風アドボ(鶏肉と豆のクリームチーズ和え)>
トレ デル ガル カバ ブリュット NVと合わせると、しっとりと仕上がった鶏肉の肉汁とカバの爽やかさがぴったりと合っています。ハーブの香りで彩られた爽やかさと、カバの青りんごや柑橘の果物系の爽やかさが出会い、夏にぴったりのマリアージュになっています。またクリームチーズの濃厚な旨味と、カバの爽やかさのコントラストも楽しめます。

<ヤリイカとポークボールの濃厚トマトソース煮込み>
ミートボールとイカを濃厚なソースで煮込んだカタルーニャの伝統的な料理です。トレ デル ガル カバ ブリュット NVの切れのある酸と旨みで、ある意味シンプルなイカの味わいが更に美味しさを増します。豚のミンチボールがカバに深みを与えて、爽やかさが主体だったカバに複雑な旨味を与えていました。両方が上がる、幸せなマリアージュだと思います。

エスケイシャダについて

エスケイシャダ(Esqueixada)はカタルーニャ料理では非常にポピュラーです。干し鱈は、スペイン、ポルトガル、南仏やイタリアで良く使われる食材ですが、鱈はイベリア半島周辺や地中海では漁獲されません。なぜ、獲れない魚の料理がポピュラーかと言うと、それは大航海時代に秘密があります。大航海時代、船に食材を積む時には鶏や豚や牛は、生きたまま餌を与えていれば腐りません。でも魚は干し鱈以外に保存に耐える食材が無かったのです。
その時代に考案された料理が今も愛され続けているのです。今回、皆さんに作って頂くレシピでは、トマトとインゲン、パプリカが入って鱈とマリネしています。これらの野菜は、みんなアメリカ大陸が原産地で大航海時代にヨーロッパに伝えられました。なので大航海時代の船乗り達はトマトとインゲン、パプリカが入ったエスケイシャダは食べていません。特にトマトは最初のうちは、観賞用で毒があると信じられていましたので、ヨーロッパで食用として使われるのは18世紀以降です。こんなに美味しいトマトを食べていなかったのは驚きですよね。

スペイン風アドボ

スペイン語でアドボ(Adobo)は漬け込む、マリネするの意味です。スペインはかつてフィリピンを植民地として支配していた時代があり、フィリピンには、スペインの影響が色々な所に残っています。家庭料理のアドボもそのひとつです。
フィリピンでは鶏、豚やイカが良く使われ、酢でマリネしてから火を通します。海外で大きく花開いたアドボですが、もちろん本家スペインでもタパス料理として、様々な場所で食べられています。

ヤリイカとポークボールの濃厚トマトソース煮込み

スペインでは、マンドゥイユ アンブ シピア(Mandonguilles amb sípia)と呼ばれ、カタルーニャの伝統的な料理です。カタルーニャは地中海に面し海産物が豊かです。海岸線まで、丘陵や山が迫り、とびきり美味しい畜産物も豊富にあります。
そんなカタルーニャ地方の特性を最大限に生かした「マル イ ムンターニャ」スタイルの料理なのです。マルは海、イはand、ムンターニャは山です。約すと「海と山」料理です。マンドゥイユ アンブ シピアはひき肉で作った肉団子とイカを煮込んだ、代表的な「海と山」料理なのです。

トレ デル ガル カバ ブリュット NVについて

今回のワインは「トレ デル ガル カバ ブリュット NV」です。

“トレ デル ガル”とは 「雄鶏の塔」の意味です。生産者から「カタルーニャでは“雄鶏”は、明るさの象徴だ」と教わりました。「雄鶏の塔」はローマ街道に面したブドウ畑の傍らにある古い見張り塔に由来しています。トレ デル ガルの畑は自家葡萄園が2か所あります。
一箇所はマスケファ村にあるマス ベルニッチ エステートで40haあります。マスケファ村はカバの一大産地であるサンサドルニ ダ ノイアから北東に5km位行った所にあります。2番目の畑はサンサドルニ ダ ノイアと、DOペネデスの拠点ビラフランカ デル ペネデスの中間にあるサン クガット セスガリゲスにあります。醸造所もその敷地内にあり、敷地内にはMasia de la Torre del Gallと呼ばれる結婚式も出来るレストランがあります。
トレデルガル カバ ブリュットの葡萄品種はマカベオ(ビウラ) を50%、パレリャーダ 35%とチャレッロ 15%ですが、いずれも自家葡萄園100%です。瓶内熟成は敢えて長くせず、フレッシュで瑞々しい果実感を維持するようなタイプに仕上げています。香りは、マカベオ特有の青りんごを思わせるニュアンスと柑橘のイメージの爽やかな香り立ちがあります。味わいは瓶内二次発酵による複雑なニュアンスも持ちながら、爽やかな果実と酸がエレガントにバランスします。心地よい余韻が長く続く素性の良さを感じさせるカバです。
※お届けするワインのラベル・ボトルが写真と異なります。

サントリーソムリエ 久保 將

一般社団法人日本ソムリエ協会の執行役員でもあり、サントリーではワインのスペシャリストとして、長年ワインの啓蒙活動に従事。

社内外で育てたソムリエ、ワインアドバイザーはなんと1,000名以上。

久保ソムリエの著書「ワインテイスティングの基礎知識」は必見。