トリップコラム ブルターニュ篇
ブルターニュについて
今回テーマのブルターニュ地方は、北西部にあるフランス最大の半島、ブルターニュ半島にあります。
北はイギリス海峡、南はビスケー湾、西海岸とウェサン島との間にはイロワーズ海がある、海産物に恵まれた土地です。
ブルターニュ地方は、かつてはブルターニュ王国、そしてブルターニュ公国という独立国でした。
現在の行政的な地域区分には、今回のワインであるミュスカデの産地ナントがあるロワール=アトランティック県は含まれていません。1956年にブルターニュ地域圏が出来る時に、ナント周辺は別地域圏に含まれることになったからです。
しかし、「歴史的なブルターニュ」には、ナントは大切です。
なんとなんと、ミュスカデの中心都市であるナントは、かつてブルターニュ公国の首都だったからです。その当時のブルターニュ公国は面積およそ33,000平方kmですから、関東の1都6県の32,400平方kmとほぼ、同じ面積です。
ブルターニュでは、農業が盛んで、野菜生産ではフランスで第1位です。
主な作物はサヤインゲン、タマネギ、アーティチョーク、ジャガイモ、トマトなどです。
酪農も盛んで、また、漁業においてもブルターニュはフランス第1の地域なのです。
水揚げ量が多いだけではありません。品質も一級品です。
例えばモン・サンミッシェルに近いサン・マロやカンカルの港で揚がるオマールエビは、オマールブルーや「大西洋の青い宝石」という尊称も与えられ、他の産地の何倍もの値段が付くのです。
かの太陽王ルイ14世も、カンカルの牡蠣を取り寄せていたとか。
白いブイヤベース“コトリアード”について
この海産物豊かなブルターニュの郷土料理として有名なのが、「コトリアード」です。
魚や甲殻類のごった煮で「ブルターニュ風のブイヤベース」とか「白いブイヤベース」と呼ばれたりもします。
このコトリアードは発祥の地がはっきりと判っていおり、モルビアン(Morbihan)という、湾に面した港町です。
ここの漁師は、売り物になる高級魚はみんな販売し、売り物にならない雑魚を集めてごった煮にして、自分達で食べたとか。起源は古く1877年には、すでに記録があります。
現地で主に使われる魚は、魚はルージェ=イトヨリ、ヘイク=ヨーロピアン・ヘイク、日本ではメルルーサまたはホワイティング=鱈の仲間、サバ、イワシ、グロンディン=ホウボウの近縁種、ヴィエイユ=ベラ、ムール貝、コックル=赤貝の仲間、エトリル=ワタリガニに一種、小エビ、手長海老などなどで、これを塩味で煮込みます。
煮込む順番も決まりがあって、穴子から先にいれ鰯は最後と決まっているそうです。
りんごとカマンベールチーズのそば粉ガレットについて
ガレットとは、もともとのフランス語の意味は「円く薄いもの」で、俗語では硬貨を指す場合もあるそうです。
料理の世界では丸い焼き菓子もガレットですが、そば粉を薄く丸く焼いた主食的なものを指している場合が多いです。
そば粉のガレットの原点はブルターニュ地方の郷土料理です。
ブルターニュ地方はフランスの農業生産全体の約15%を占める農業の盛んなエリアで、特産物としては、そば、リンゴがあります。北に位置する涼しい産地らしいアイテムですよね。
そばが特産になったのには逸話があります。
ブルターニュ公国の公女だったアンヌ・ド・ブルターニュは早く父を亡くし、政略結婚を繰り返させられた人でしたが、ブルターニュを愛し、ブルターニュを飢えや他国からの侵略から守ろうとしました。
アンヌは、そばがブルターニュの厳しい気候に最適なのを見抜き、そば栽培を推奨する為に、そば栽培を無税にしたという話です。
その結果、ブルターニュではそば作りが盛んになり、現在ではフランスで生産されるそばの大半がブルターニュ産だそうです。
メゾン カステル ミュスカデ セーヴル エ メーヌについて
メゾン カステル AOCシリーズは、フランスNo.1(※)ワインメーカーカステルが手掛ける新ブランドです。
※フランス企業で2019年売上数量が最大(IWSR2020)
厳選したぶどうを使い、伝統的な手法と、カステルの最新技術とノウハウを結集した現代的な醸造熟成方法の融合で生まれたブランドです。
メゾン カステル ミュスカデ セーヴル エ メーヌ は、黄色いレモンやりんご、小さな白い花を思わせる爽やかな香りに、シュール・リー製法によるパンのニュアンスがあります。
素直な果実感と、イキイキとしたストレートな酸味、後口の塩を思わせる余韻が特長の辛口白ワインです。
お料理とワインのペアリングノート
コトリアードに伝統的に合わせるワインといえばミュスカデです。ミュスカデはブルターニュ公国時代には、首都の有ったナント周辺で育てられ、醸されていました。
コトリアードに使われる様々な魚介の旨味と生クリームが絡み合って、シンプルではあるけれども複雑な美味しさになっています。
ミュスカデの醸造で使われるシュール・リー製法は、ステンレスタンクの中で酵母とワインが接触を続ける間に、酵母が分解されるという作り方です。酵母は生き物ですから、体はたんぱく質で出来ています。その体が分解されて出来るのはアミノ酸、日本のお出汁と似た旨み成分なのです。
コトリアードの味わいとミュスカデの旨味が口の中で出会って、美味しさの相乗効果を産むのをご実感頂けるマリアージュ体験だと思います。
りんごとカマンベールチーズのそば粉ガレットとミュスカデの相性を見るのに、まずは、ガレットだけとミュスカデを合わせてみてください。
ガレットの、蕎麦掻きにも通じる素朴な蕎麦自体の味わいと、ミュスカデの、シンプルだけれども、瑞々しくフレッシュでしみじみとした旨みとが、優しく調和するのが判ると思います。
りんごの爽やかなタッチは、正にミュスカデのタッチと共通のニュアンスです。
またカマンベールの柔らかい旨みを、ミュスカデの爽やかな酸味が溶かして広げて、一段と高いマリアージュの世界をつくっています。
サントリーソムリエ 久保 將
一般社団法人日本ソムリエ協会の執行役員でもあり、サントリーではワインのスペシャリストとして、長年ワインの啓蒙活動に従事。
社内外で育てたソムリエ、ワインアドバイザーはなんと1,000名以上。
久保ソムリエの著書「ワインテイスティングの基礎知識」は必見。