トリップコラム ボローニャ篇

ボローニャについて

今回テーマのボローニャは、エミリア・ロマーニャ州の州都で、かつボローニャ県の県都でもあります。ミラノ中央駅から電車で3時間余り、人口は約39万人で美食の都として有名です。

ボローニャの名前を冠した有名な料理にボロニェーゼがあります。肉をベースとしたパスタソースで、タリアテッレ アル ラグー(Tagliatelle al ragù)と呼ばれています。ボローニャが美食の都と呼ばれるのは、ボローニャの街だけではなく、近隣のモデナは、バルサミコ酢の産地であったり、パルマでは生ハムとパルミジャーノ・レッジャーノが作られます。パルミジャーノ・レッジャーノの副産物でもあるマスカルポーネも有名ですよね。また、北部イタリアで食べられる平打ちのパスタ、「タリアテッレ」は、エミリア・ロマーニャ州かマルケ州が起源と言われています。

ボローニャの歴史も少しだけ。ボローニャの周辺地域は、紀元前9世紀頃にウンブリア人の文明が栄え、その後、謎の民族エトルリア人に替わり紀元前4世紀にはケルト民族に征服されました。紀元前196年にはローマ帝国に支配され、ボローニャ中心の通りには、「総ての道はローマに通ず」の石畳が街のあちらこちらに残されています。広大なマッジョーレ広場にはアーチ型の列柱やカフェが立ち並び、市庁舎、ネプチューンの噴水、サンペトロニオ大聖堂といった中世やルネサンス期に造られた建造物もあります。中世の塔も多く残っており、中でもアシネッリの塔とガリセンダの塔からなるボローニャの斜塔が有名です。

お料理とワインのペアリングノート

<タリアテッレ・アル・ラグー>
タリアテッレ・アル・ラグーを食べてタヴェルネッロ オルガニコ サンジョヴェーゼのグラスを鼻に近づけると、肉のラグーの香り、ブーケガルニの香りとサンジョベーゼの香りとが共鳴しているのが判ります。口に含むとタリアテッレ・アル・ラグーだけを食べている時よりも明らかにソースの深みが増しています。また、ワインも単体でテイスティングしたときよりも、色気のあるしっとりとした深みが感じられました。食べ物とワインとが「両方上がる」のが幸せなマリアージュだと思います。

<パルミジャーノ香るコトレッタ>

パルミジャーノ香るコトレッタを食べながらタヴェル ネッロ オルガニコ サンジョベーゼと合わせてみます。加熱されたパルミジャーノ レッジャーノのコクと旨味が、サンジョベーゼの軽やかながらもバランスの取れた味わいと良くマッチしています。生ハムの塩気が良いアクセントになり、サンジョベーゼの完熟からくる甘やかさがより一層、心地良く感じられました。肉をカツにして、地元の素晴らしい食材である生ハムとパルミジャーノ レッジャーノを纏わせて更にオーブンで焼く、この「ひと手間、ふた手間」こそが「美味しさを追及する事にどん欲なイタリア」を象徴する美味だと思いました。この地元の美味の極致が、地元のワインと、実に良く合う事は、本当に素晴らしい事だと思います。皆様も是非ご堪能ください。

タリアテッレ・アル・ラグーについて

タリアテッレ・アル・ラグーはフランスの煮込み料理であるラグーがイタリアで定着した料理です。
パスタとしてのタリアテッレ・アル・ラグーが最初に文献に出てくるのは、19世紀後半。ボローニャ近郊のイモラで地元の枢機卿のバルナバ キアラモンティの料理人、アルベルト アルヴィジのレシピです。1891年に彼が書いた料理本にマッケローニ・アッラ・ボロネーゼとして紹介され、レシピにはトマトは使われていませんでした。
ヨーロッパの伝統料理によくある事なのですが、タリアテッレ・アル・ラグーにも材料として使ってよい素材の制限があります。1982年に、イタリア料理アカデミー(Accademia Italiana della Cucina)のボローニャ代表が発表したレシピでは、牛肉、パンチェッタ、タマネギ、ニンジン、セロリ、トマトペースト、肉のブイヨン、赤ワインは必須で、任意食材として牛乳と生クリームと記されています。なんと、ニンニクが入らないのが驚きですよね。

パルミジャーノ香るコトレッタについて

コトレッタ はイタリア料理で、基本的に子牛肉から作られる、パン粉をまぶしたカツの事です。この料理は、元々はフランス料理で、1735年にシェフのジョゼフ・メノンが作り上げた料理で、コートレット ド ヴォー フリットと言う名前でした。コートレットとはフランス語で「小さなあばら骨」を意味しており、肉についたまま調理されるあばら骨の事を指しています。ナポレオン戦争中にフランス人がこの料理をイタリアとオーストリアに持ち込んだところ、イタリアで人気となり、コートレット レヴォリューション フランセーズと呼ばれました。「フランス革命カツレツ」と言ったところですね。オーストリアでは、ウィーナーシュニッツェルの名前で呼ばれました。

コトレッタには、大きく分けて3つのバリエーションが存在します。
ロンバルディア州ではコトレッタ アッラ ミラネーゼか、もしくはヴィテッロ アッラ ミラネーゼです。リゾット アッラ ミラネーゼを添えるのが定番ですが、このミラネーゼが、イタリアでは一番良く知られています。コトレッタ アッラ ミラネーゼは、外見はウィンナー シュニッツェルに似ていますが、骨付きで調理されます。揚げ油は伝統的には、澄ましバターが使われます。大きく薄く叩いてから上げますので、その形から、イタリア語で象の耳を意味する orecchia d'elefante と呼ばれることもあります。
エミリア・ロマーニャ州は今回のレシピでもある、コトレッタ アッラ ボロネーゼ 。発祥の地であるボローニャにちなんでボロネーゼです。ミラネーゼに似ていますが、揚げた子牛肉のカツレツの上に、溶かしたパルメザン チーズの塊と生ハムを乗せます。
シチリア島では、コトレッタ アッラー パレルミターナがあります。ミラネーゼに似ていますが、揚げずに子牛肉にオリーブオイルを塗ってフライパンで焼くかグリルします。パン粉にはパセリやペコリーノチーズが混ぜられることが多く、ミラノ風カツレツとは異なり卵を入れません。

タヴェルネッロ オルガニコ サンジョヴェーゼについて

今回のワインはタヴェル ネッロオルガニコ サンジョベーゼです。タヴェルネッロは1983年に発売され、40年愛され続けている「小さな居酒屋」を意味する国民的ワインブランドです。イタリアワインブランドで販売量はなんと世界No.1 ※、世界中で親しまれているイタリアワインです。

タヴェルネッロを醸しているカヴィロ社はエミリア・ロマーニャ州に本拠地を置く会社です。オルガニコは、タヴェルネッロブランドの中のオーガニックワインです。オーガニックワインは、皆さんはご存知だとは思いますが、オーガニックぶどうから造られるワインのことです。原則として、化学肥料、農薬、除草剤を使用せず、遺伝子操作や放射線処理が禁止された有機農法によって生産されたぶどう(=オーガニックぶどう)を用いてつくられます。
タヴェルネッロには、EUオーガニックの認証マークである、緑色のEU旗を模した「ユーロリーフ」が付けられています。
(※出典:IMPACT Databank 2012 Edition Top25 Table Wine Brands’ Share of Total Table Wine)

サントリーソムリエ 久保 將

一般社団法人日本ソムリエ協会の執行役員でもあり、サントリーではワインのスペシャリストとして、長年ワインの啓蒙活動に従事。

社内外で育てたソムリエ、ワインアドバイザーはなんと1,000名以上。

久保ソムリエの著書「ワインテイスティングの基礎知識」は必見。