トリップコラム ボルドー篇
お料理とワインのペアリングノート
<グリル野菜のサラダ(トマトムースとともに)>
ボルドーの主力品種のひとつであるカベルネ・ソーヴィニヨンは少し緑を感じさせる植物的な要素をもっているので、付け合わせのパプリカ(赤・黄)、オクラ、ズッキーニ、ミニトマトやブロッコリーとの相性もとても良いです。
<アントルコート・ボルドレーズ(牛肉ステーキのボルドー風)>
牛肉ステーキにボルドレーズソースをたっぷり絡めて口に運ぶと、柔らかでコクのある牛肉が肉汁とワインのソースで更に深みのある味わいになっています。「ドメーヌ バロン ド ロートシルト サガ R」のきめ細かなタンニンの渋味が消えて甘さに転換しています。マリアージュの基本原理の一つと言える「動物性脂肪と若いタンニンが出会うと甘さに転換する」原理が見事に働いています。転換した甘みはサガRの長い余韻と共鳴して、美味しく幸福な後味となり口を満たしてくれます。
ボルドーの料理について
ボルドーが位置するのはフランスの南西部の大西洋沿岸。フランスを代表するワイン産地であり、フォアグラやトリュフの大産地である南西地方に隣接しています。ジロンド川の河口周辺に栄えた港町で、甲殻類や小魚の漁が行われており、ボルドー市から南南西に50kmあまり行ったアルカッションでは牡蠣の養殖が盛んです。また、魚介だけではなく畜産も盛んで、ポーイヤックの子羊やバザスの牛は特に有名です。スペインのバスクの影響も受けており、美食が楽しめるエリアとなっています。
日本でステーキと言えばサーロインかヒレですが、フランスでステーキと言えばコートドブッフ(Côte de bœuf)。中でもボルドーでは特にアントレコート(Entrecôte)が重要視されます。コートドブッフは肩ロースの一番尾っぽ寄りの所からリブロースにかけてで、アントレコートはコートドブッフの一番サーロイン寄りの部位です。ボルドーではステーキを焼いたフライパンに赤のボルドーワインをたっぷりいれて、バターモンテ(最後にバターを乳化させてソースにする)してボルドレーズソースにします。古い時代はバターの代わりに牛の骨髄の脂を溶かして濃厚に仕上げました。
アントルコート・ボルドレーズ(牛肉ステーキのボルドー風)
グリル野菜のサラダ(トマトムースとともに)
ドメーヌ バロン ド ロートシルト サガ R
今回のワインは「ドメーヌ バロン ド ロートシルト サガ R」です。
ワインの王者として君臨するボルドーワインのメドック地区には、厳然とした格付けがあります。メドック地区公式格付は1855年にパリで開催された万博の記念事業としてナポレオン3世の命令によって選定されました。実際に選定したのはボルドー商工会議所で、彼らは左岸のメドックのワインと貴腐ワインを中心に商売をしており、赤はメドック地区公式格付になりました。栄えある1級に選ばれたのがシャトー ラフィット、マルゴー、ラトゥールとグラーヴのオー・ブリオンの4つである事はご存知の方も多いのではないでしょうか。
かなりのワイン通でもご存知無いのは、この4つも序列がある事です。筆頭の1級はシャトー ラフィット。古文書によるとシャトー ラフィットの葡萄園の創設は1335年です。ラフィットという名称は、ガスコン語で「小高い丘」を意味する「La Hite (ラ イット)」に由来しています。1700年代前半にはラフィットが「王のワイン」の称号で呼ばれていました。1868年にはロスチャイルド家によってラフィットは取得されシャトー ラフィット・ロートシルトとなりました。ロスチャイルド家は、その後もメドックのシャトー デュアール・ミロンやソーテルヌのシャトー リューセック、ポムロールのレヴァンジルなどを買収しドメーヌ バロン ド ロートシルト(DBR)ラフィットグループとなりました。
「ドメーヌ バロン ド ロートシルト サガ R」の色は、グラスに注ぐと美しい濃い目のラズベリーレッドです。熟したプラムやカシスなどを連想させる甘い果実の香りに、瑞々しいスミレの花を思わせる涼やかさがあります。口に運ぶと軽やかでエレガントです。メドックの1級格付けの4つで「最もエレガントなワイン」と呼ばれるのがシャトー ラフィットで、その比類なき上品さは「ラフィットエレガンス」と呼ばれます。サガ Rも、その「ラフィットエレガンス」の血脈を引いていて上品な味わいの赤ワインです。力強いタンニンはしっかりと有りつつも繊細できめ細かい味わいは、正に本格ご褒美ボルドーに相応しいワインです。
サントリーソムリエ 久保 將
一般社団法人日本ソムリエ協会の執行役員でもあり、サントリーではワインのスペシャリストとして、長年ワインの啓蒙活動に従事。
社内外で育てたソムリエ、ワインアドバイザーはなんと1,000名以上。
久保ソムリエの著書「ワインテイスティングの基礎知識」は必見。